リトバスSS 聖夜の乙女たち (クリスマス記念SS)




「理樹くん。このクッキー、私が焼いたんだよ」
「へぇー、美味しそうだね。食べていい、小毬さん?」
「どうぞどうぞ〜♪ たくさん食べちゃってっ♪」

 僕は小毬さんのクッキーを一口食べる。うん。サクサクしていてほんのり甘い。紅茶があればお茶
請けにぴったりだ。

「……………理樹っ!」
「えっ、な、何? どうしたの、鈴?」

 突如、鈴が僕を呼びつける。あまりに突然だったから驚いてしまった。

「こっちのも美味しいぞ。あ、あーんだ///」
「えっ………や、その……」
「なんだ? こまりちゃんのは食べられてあたしのは食べられないのか?」
「いやその………そんなんじゃなくて」

 鈴が持っている皿には、二枚重ねのホットケーキがあった。恐らく鈴が自分で焼いたものだろう。
メープルシロップと溶かしバターがたっぷりかけられてあって、凄く美味しそうだ。

「理樹………」
「あーえっと………いただきます」

 鈴が差し出した、フォークに刺さったホットケーキを口にする。てゆーか鈴。その泣きそうな顔を
するのは反則なんじゃないかな?

「うん、美味しいよ鈴」
「そうか………なら、もっと食べてくれ」

 鈴が切り分けられたホットケーキに、フォークを入れる。だが………

「鈴ちゃんずるいよ〜。次は私の番だよ〜」
「むぅ………少しくらいはダメなのか?」
「ダメだよ〜。私だって理樹くんに食べてもらいたいもんっ」
「………じゃあ、かわりばんこにしよう。それなら問題ない」
「鈴ちゃん………うんっ、それなら万事解決だねっ♪」

 どうやら、二人の間で話がまとまったみたいである。まぁ、空気が張り詰めたままでなくなったか
ら、良かったかも………




「なぁ、俺たち完全にのけ者にされてねぇか?」
「くそっ。やはり男の友情よりも愛情を選んでしまうのか、理樹?」
「うぅ、私も理樹くんにマフィンを食べてもらいたかったですヨ」
「二人の女に囲まれる直枝さん………やはり私としては棗×直枝のほうが。いえ、でも………」
「ふっ。鈴君たちもなかなかやるな。おねーさんも混ざりたいくらいだ」
「わふー………お二人とも大胆なのですー」
「はぁ………妹をとられた兄ってのは、こういう気分になるもんなんだな」




 ………そうでもなかったかもしれない。周りの視線という視線が凄く気になって仕方がないです。
もっとも、今この場にはリトルバスターズのメンバーしかいないから、まだ幸いしたけど。


「理樹くん。あ〜んして♪」
「理樹………あ、あーんだ///」


 小毬さん、鈴。ちょっとは周りの目を気にしようよ………




―――――――――――




 今僕たちは、食堂を貸しきってクリスマスパーティーを催している。場所を確保したり、段取りな
どを組んだのは恭介だけど、このパーティーの発案者は、実は僕だったりする。

 せっかくのクリスマス。しかも、恭介は今年で卒業してしまう。だから、今年のクリスマスはみん
なで楽しく過ごしたいと思い、みんなに相談してみたのだ。

 そしたら皆そろってノリノリで大賛成してくれた。特に恭介、真人、謙吾の三人は“その言葉を待
っていた!”と言わんばかりに喜んでいた。
 もちろん、他の皆も盛り上がりを見せていた。当日用意するお菓子や料理にジュース。そして出し
物など、相談する内容は尽きない。事実、発案してから今日までの一週間は、今日のために全てを費
やしたといっても過言ではないだろう。


 そして当日―――――


 予想以上の豪華な料理と飾りつけに、僕は驚愕してしまった。まさかここまでやるとは、と呟いて
しまうほどの凄さだったのだ。

 いつかのホットケーキパーティー以上の盛り上がりを見せつけた恭介や謙吾。葉留佳さんやクドた
ちも、みんな笑顔で楽しそうに過ごしていた。



 このパーティーを提案して本当に良かった。………と、思ってたんだけど。




「理樹くん。隣座ってもいい?」
「え、あ…うん」
「むっ………ならあたしはその反対側に座る」
「ちょ、ちょっと? 鈴、くっつきすぎだよ! って、小毬さん? なに腕絡めてきてるのさ!?」
「ノンノン、気にしちゃダメなのです」
「こまりちゃんの言うとおりだ」
「って、なに擦り寄ってきてるのさ!?」
「寒いからだ。理樹の体はすごくあったかい」
「じゃあ、私も擦り寄っちゃうねっ♪」




 ………以前、互いに宣戦布告した二人が、何かにつけてアピールし始めた。それは衰えることなく、
むしろエスカレートしていく。周りからの視線が………凄く痛い。

 最初は楽しいパーティーだったはずなのに、今では僕の神経をすり減らすばかりの場となっている。
男子三人の悲しそうな視線、そして女子郡の興味と哀れみの視線が僕のほうに集中砲火している。



「うぅ………鈴ちゃんも小毬ちゃんも見せ付けすぎですヨ」
「だったら、三枝さんも当たって砕ければいいと思うのですが………」
「さすがに姉御のようにはなりたくないですヨ」
「わふー。そういえば来ヶ谷さん、なんだか落ち込んでました」
「あぁ………鈴君の必死なる威嚇とコマリマックスの泣き落としは卑怯という度合を超えていたな」



 なんか良くわからないけど、来ヶ谷さんが遠い目をしながらあさっての方角を見ている。ちなみに、
恭介たちは………



「はぁ、俺たちの理樹は何処へ行っちまったんだ………俺の筋肉が足りなかったせいなのか?」
「くそっ………今日この日のために、俺は理樹専用のジャンパーを作り上げたというのに………」
「ふっ………俺は寂しくなんかないぞ………ちっとも寂しくなんかないやいっ!!!」



 なんか三人が囲ってため息をつきながら飲み物を飲んでいた。なんか、微妙に缶ビールらしきもの
が混じっているような気もするんだけど………


「理樹くん、どうしたの?」
「理樹! あんな変体兄貴のことなんか放っといて、あたしを見ろ!」


 あ、恭介が泣いてる。って、慰めてる謙吾も涙流してるし………真人はなんか知らないけど、筋ト
レを始めてるし………


「ほわぁ、鈴ちゃん凄く大胆だね〜」
「当然だ。こまりちゃんには絶対に負けない!」
「む〜っ、私だって、鈴ちゃんには負けないもんっ!」

 小毬さんと鈴は、互いに自信に満ちた目で見つめ、そして笑いあった。その反面、僕はどんな反応
をしていいか分からず………まぁ、ぶっちゃけ戸惑っていた。




「む〜、こうなったら私もとことんやってやりますヨ。まずはお姉ちゃんに協力を……ブツブツ……」

 は、葉留佳さん? 一体何を企んでるのかな? 佳奈多さんを味方につけて何しようってのさ?

「はぁ、仕方がない。今夜はクドリャフカ君でこの傷ついた気持ちを癒すとしようか………」
「わ、わふーーーーーーっ!!??」

 く、来ヶ谷さん? なにクドをお持ち帰りしようとしてるのさ? てゆーか、僕を見る目がなんだ
か凄く怖い。怒ってるとかじゃなくって、なんかその………狙われているみたいな、そんな感じ?

「ふっ、ふっ………この筋肉で理樹を取り返してやるぜ!」

 真人が汗だくで腹筋をやっている。てゆーか、何回目なんだろう? 鍛えすぎるってのも良くない
と思うんだけど………

「井ノ原さんが直枝さんを………ちっとも美しくありませんね。でも、今の状況もまた見所は満載か
もしれませんね、楽しみです。でも………ふふっ♪」

 西園さん………完全に楽しんでるね。って、その笑いは何? なんか来ヶ谷さんとは別に怖い。

「理樹………俺に一体何が足りなかったというんだ? だが男として、時には引き際も肝心ではある。
このジャンパーにかけて、俺はお前を一生見守ってやろうじゃないかあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 謙吾が空(天井)に向かって叫んでる。うーん、毎度毎度思うんだけど変わったよね、謙吾。

「こうなったら………理樹に“お義兄ちゃん”と呼んでもらうようにするしか………ふっ、新たなる
ミッションの予感だな………」

 きょ、恭介? なんか凄く面白そうな…ってゆーか不敵な笑みを浮かべてるんだけど。何かいつも
よりも野望に満ちてるような………そんな気がする。




「理樹くんあったか〜い♪」
「ごろごろ♪」




 ………いやいや二人とも、少しは周りの空気を読もうってば!




 なんか新年明けたら………また色んな意味でにぎやかになりそうだな。




――――――――――――




 やがてパーティーも終わり、各自後片付けをして寮に戻っていく。とはいっても、今は冬休み。リ
トルバスターズのメンバーも、明日から次々と実家に帰っていくのだろう。


 僕の隣を歩いている鈴や小毬さんも、明日あたりから帰省するのかもしれないな。


「そう言えば、理樹くん。冬休みもずっと寮にいるの?」
「え? あぁ、うん………まぁね。特に行きたいところもないし………」


 家族がいない僕にとって、帰る家は寮ぐらいのものだ。去年は恭介や鈴と一緒にお爺さんの家でお
世話になったけど、毎年お世話になるのも悪い気がする。

 だから、今年は寮で1人、のんびりと過ごそうかと思っていたのだ。さすがに誰もいないけど、ほ
んの二週間近くのことでしかない。だから、別にいいかなとも思ってる。


「ねぇ、理樹くん………」
「え?」
「良かったら………私の家に来ない?」
「え…ええええっ!?」
「なにぃっ!?」

 僕と鈴がそろって驚愕の声を上げる。まさか小毬さんの口からこんな言葉が出るとは思っても見な
かったのだ。

「その………お部屋なら余ってるし、お父さんもお母さんも大歓迎してくれるって言ってたし………」

 いや、大歓迎してくれるって………

「小毬さん。もしかして話したの? 僕たちのこと………」
「え、えっとぉ………うん。あ、でもお母さんもお父さんも理樹くんのことは悪く言ってなかったよ?
お母さんなんて凄く理樹くんに興味もってたから………」
「そ、そうなんだ………」

 なんか、それならそれで行くのが少し怖いような………

「理樹。去年みたいにあたしと一緒に来い。きょーすけも一緒だから絶対に楽しいぞ」
「鈴………で、でもさ」
「うー………理樹はそんなにあたしと一緒にいるのが嫌なのか?」
「べ、別にそんなこと言ってないじゃないか!」
「なら問題はない。あたしと一緒に行こう」
「うぅ………」

 な、何だろう? やけに今日の鈴は強引ってゆーか………

「鈴ちゃん。無理強いはダメだよ〜。それに独り占めも良くないのです!」
「むぅ………じゃあ、どうすればいい?」
「うーんと………よぉしっ!」


 小毬さんが気合のこめた声を出す。何かを思いついたようだ。


「理樹くんが冬休みの間に、両方の家に行けばいいんだよ〜。これで万事解決だねっ♪」


 ………………えーっと。


「それ………本気で言ってる?」
「もちろんだよ。遠慮しないで来ちゃいなよ、ゆー♪」
「いやでもさ………旅費とかだって掛かるし………」

 一つの家ならともかく、二つの家を行くとなるとそれなりに旅費も掛かる。余計なお金は、あまり
使いたくはなかった。

「大丈夫だよ理樹くん。お父さんとお母さんに相談してみるから」
「きょーすけが“俺に任せろ”って言ってたぞ。だから心配する必要はない」


 ………そう言われると僕、選択の余地が無いような気がするんだけど。

 でも………よくよく考えたら一人で過ごすよりも、誰かと過ごすほうが良いかなぁとも思う。なん
か、この二人相手に意地張るのも良くない…というか無駄に終わる気がするし。


「………分かった。お言葉に甘えるよ」


 僕が返事した瞬間、二人の表情が輝いた。


「うんっ、それじゃあ早速お母さんに電話してみるねっ♪ らららるんるるーん♪」
「きょーすけ。今理樹があたしたちと一緒に過ごすって言ってくれた。………いや、休み全部じゃな
い。こまりちゃんの分もある。だから………」


 小毬さんは口ずさみながら携帯を操作している。一方鈴は、速攻で恭介に連絡を取っていた。何か
電話の向こうで恭介の叫び声が聞こえてきたような………そんな気がした。




 結局、今年の冬休みは、一人で過ごすという事はなくなった。
 でも僕は、去年以上に騒がしくなりそうだと、そう思えてならなかった。




 とりあえず、部屋に戻ったら、旅の支度をしておこうか―――――




‐Fin‐




あとがき はい、クリスマス記念SSです。なんとかギリギリ間に合いました。 いよいよシリーズ化しました、リトバスのSS。 小毬さんのフンワリ感と鈴のツンケンとしたアプローチが書いていて面白い。 ………果たしてアプローチといえるのかどうかがまた微妙ですが……… さて、次の記念SSは大晦日、そしてお正月となる予定です。あくまで予定ですけどね。 内容は………皆さんでご想像してください(おぃ それでは皆さん。忙しい年末を頑張って乗り切りましょうっ! 次回もよろしくお願い致します。 感想・意見・リクエストがある方は、BBSまたはメールでどうぞ。
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