「理樹くん。家に着いたら、美味しい御節食べようね〜♪」 「う、うん………」 僕の右隣で、小毬さんが満面の笑顔を浮かべてくる。 「理樹! こまりちゃんばかり見てないであたしも見ろ! そんなにあたしは可愛くないのか!?」 「そ、そんなことないよ。鈴は十分すぎるほど可愛いよ」 僕の左隣で、鈴がネコの威嚇みたく、突っかかってくる。うぅ…下手すると本当に噛み付かれかね ないなぁ……… 新年が明けたお正月。僕は今、小毬さんのお招きに預かり、彼女の実家へと向かっている最中であ る。鈴は途中まで一緒に行くということなんだけど……… 「うぅ………理樹があやまちをしないかどうか心配だ」 「あのねぇ鈴、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」 あやまちって………僕はそんなに軽い男として見られてたのかな? だとしたらショックだ。 「鈴ちゃん。理樹くんはちゃんとした男の子だよ? だから心配しなくてだいじょーぶっ!」 小毬さん………ありがとう、フォローしてくれて。 「でも………もし理樹くんが私にメロメロになっちゃったら………ゴメンね?」 「………そしたら、あたしも理樹をメロメロにさせる。こまりちゃんには絶対にまけない」 「わぉっ、望むところだよ〜♪ 鈴ちゃん♪」 ………フォロー、してくれたのかな? 何か、鈴の表情が凄く燃えているような気が……… 「楽しみだね、理樹くん♪」 「理樹! あたしのことも絶対に忘れるな!!!」 えっとさ、二人とも………周りの人たちの目が凄いことになってるってこと、気づいてるのかな? ……………気づいて………ないんだろうなぁ、きっと。 リトバスSS ようこそ神北家へ!(お正月記念SSその1) 「えと………初めまして、直枝理樹です。本日は、お世話になります」 神北家のリビングにて、僕は小毬さんのご両親に挨拶をする。 小毬さんのご両親は、二人とも温厚で優しそうな雰囲気の持ち主だった。小毬さんも、家族との仲 は凄く良いみたいだ。正直………羨ましいかな。 「あぁ。小毬から、君の事はよく聞いてるよ。堅苦しくせず、ゆっくりしてきなさい」 「いつも、ウチの小毬がお世話になってます。ふふっ♪ それにしても、小毬ったらやるわねぇ♪」 おばさんが何か意味ありげな笑顔を娘に向かって振りまいていた。小毬さんは顔を真っ赤にして縮 こまってしまう。 「あ、あぅ………べ、別にそんなんじゃ………」 「分かってるわよ。まだ勝負している最中なんでしょ? いい、小毬? このチャンスを絶対に逃し ちゃダメよ?」 「………お母さん。うんっ♪ 私頑張るよっ♪」 なんか母娘の間で気合の篭った語り合いが繰り広げられている。僕………何かされるなんてこと、 ないよね? 「ンッン………!」 おじさんが咳払いをする。僕はなぜか思いっきりビクついてしまった。 「盛り上がるのは良いが、理樹くんのことを放ったらしにするのはよくないと思うぞ?」 「そ、そうね………ごめんなさいね理樹くん」 「あぅ………理樹くんごめんねぇ〜」 「いえ………僕は別に」 う〜ん、母娘揃って申し訳なさそうな顔されると、こっちが逆に申し訳なくなってくるって感じす るなぁ……… 「さぁ小毬。理樹くんを、今日泊まる部屋へ案内してあげなさい」 「あ、うん、そうだねぇ。理樹くん、いこっ」 「わ、分かったから引っ張らないで………」 そういって、僕は小毬さんに引っ張られる形で、リビングを出て行った。 残ったのは、小毬さんのご両親のみとなった――――― ―――――――― 「あなた。本当に良いんですか?」 「ん、何が?」 「今日、理樹くんに泊まってもらうお部屋の事ですよ。あの部屋は………」 「あぁ、そのことか………」 小毬の父は、残った紅茶を口に含む。 「実はな。このことは小毬が言い出したことなんだ」 「えっ………あの子…が?」 小毬の母は、予想外の言葉に驚愕する。 「理樹くんには、是非あの部屋を使ってもらいたいって、言ってきたよ。僕も最初は驚いた。まさか、 小毬の口からあの言葉が出るとは、思いもしなかったからな」 小毬の父は、苦笑しながら言葉を続ける。 「思えば、小毬が明るくなったのも、二年生に上がってからだったな。理樹くんや鈴さん…だったか? その子達と仲良くなったのが、一番のきっかけだったようだ」 「そういえば、修学旅行の前に電話貰ったときも、凄く楽しみにしてましたね」 「あぁ………」 二人は、言葉を紡ぐ。まるで、何か思い出したくないことを思い出したかのように……… 「あの事件には驚かされたが………それがきっかけで、さらに仲を深めたみたいだな。最も、何があ ったのかは、分からずじまいだったが」 「まぁ、いいじゃないですか。こうして、小毬が元気に過ごせてるんですから。それに、素敵な男の 子も連れてきてますしね♪」 男の子、という言葉に、小毬の父は微妙な表情をする。 「そんな顔なさらなくても、理樹くんは小毬を不幸にするような人ではないと思いますよ? 小毬だ って、あんなに嬉しそうな顔をしてたじゃないですか」 「あぁ………そうだな」 小毬の父は、ため息を一つつきながら呟いた。 「まさか、拓也の部屋に泊めて欲しいって、言ってくるとはな………」 ――――――――― 小毬さんに案内された部屋は、明らかに今は使われていない部屋だった。それももう、何年も使わ れて無いかのような、そんな感じだった。 「空き部屋………だよね?」 「うんっ、今はね」 今は………? 前は誰かが使ってたのかな? 「理樹くん。私お茶用意してくるね」 「あぁ、うん。ありがとう」 小毬さんが部屋を出て行く。僕1人が、この部屋に残された。 少し、辺りを見渡して見る。広さは申し分ない。空き部屋にするにはもったいないと思う。 それでも、きちんと掃除はしてあるみたいだ。けど、部屋に物が無さ過ぎる。ベッドはおろか、机 すらない。本当に、使われてないんだな。 「………ん?」 本棚のところに、写真立てが倒れていた。………いや、これは倒れているというより………倒して いるのか? 僕は、倒れている写真立てを起こしてみた。 「これって………」 写真立ての中には、写真が収められていた。そこには、幼い男の子と女の子が楽しそうな笑顔で写 っている。とっても、仲が良さそうだった。 「小毬さん………なのかな? だったら………」 この男の子は………一体? まさか………小毬さんの―――――― ――――――――― 「ねぇ、小毬さん。ちょっと聞いてもいい?」 「ふぇ? どしたの、理樹くん?」 僕たちは、小毬さんが持ってきた大量のお菓子と紅茶で、ティータイムを楽しんでいた。 頃合いを見て、僕は写真立ての事を聞いてみることにする。 「あの本棚に、写真立てがあるでしょ? さっき、ちょっと見ちゃったんだけど………」 「………っ」 小毬さんがハッ、とした表情になる。やっぱり、関係があるみたいだ。 「あそこに、小さな女の子が写ってたんだ。あれって、小毬さんだよね?」 「うん………よく私だってわかったね」 「そりゃ…ね。あと………隣に写ってた、男の子なんだけど………」 この事に関して、僕はある一つの予想を立てていた。一体何故、こんな予想を貫き通したのか、疑 問に思いながら。 「もしかしてさ………小毬さんのお兄さん……なのかな?」 沈黙する。お菓子を食べる音も、紅茶をスプーンで混ぜる音もしない。 僕も小毬さんも、言葉を発しない。僕は小毬さんの返事を待っていた。けど、小毬さんは俯いたま まだった。 「ゴメン。なんか、ヘンなこと聞いたみたい………」 「そんなことないよ………」 「小毬さん?」 僕の言葉を遮るように話す小毬さん。小毬さんは立ち上がり、写真立てを持って戻ってくる。 「理樹くんの言うとおり、この人は私のお兄ちゃんなの。そして、この部屋も………」 つまり、この部屋はお兄さんの部屋だったってことか。………もしかして、お兄さんは。 「お兄ちゃんは、病気だったの。私が小さいときに………死んじゃった」 「小毬さん………ゴメン、もういいから」 「違うの。理樹くんには………聞いて欲しいの」 小毬さんの声が響き渡る。彼女にしてはあまりに強い言い方だったため、僕は驚いてしまう。 「ゴメン、理樹くん」 「いいよ。その………聞かせてくれるかな? 小毬さんのお兄さんの事」 「………うんっ」 その後、小毬さんはお兄さんの事を僕に聞かせてくれた。 お兄さんが大好きだったこと、お兄さんの出来事を夢だと思い込むようになったことなど。 そして………どこか遠い世界で、それを乗り越えたこと――――― それを聞いたとき、僕はふと思った。何かが、頭の中で引っかかっている。けど、それが何なのか は全然分からない。でも、その遠い世界で、僕は何か行動を起こした………ような気がする。 僕もまた………夢の中で、何かをしたんだろうか? 話を戻そう。今は、そんなお兄さんの事に関しては、問題は無いらしい。リトルバスターズと出会 い、鈴や僕と出会ったおかげだと、小毬さんは言った。 今まで、この部屋を誰かが使うということはしなかったらしい。何かの拍子で小毬さんが壊れると いう可能性があったからだそうだ。心配がなくなった今でも、この部屋を使うことは無かったらしい んだけど……… 「本当に大丈夫なの、小毬さん? 別に、無理しなくても………」 「大丈夫だよ。大丈夫だから、理樹くんに泊まって欲しいって思ったんだよ」 「でも………」 「だから理樹くん。夜はこの部屋で、いろんなことを話そうね♪」 まぁ、こんなに嬉しそうな笑顔してるんだから大丈夫か。 ………あれ? なんか今の言い方だと……… 「ねぇ、小毬さん。夜寝るときは、自分の部屋で寝るんだよね?」 うわぁ、何か僕、凄くヘンなこと聞いてるなぁ。まぁでも普通に考えたら……… 「ううん。理樹くんと一緒に寝るよ?」 ………ええっと、なにさらっと爆弾発言してるんだろうね、小毬さん? 「楽しみだね、理樹くんっ♪」 「や、その………いくらなんでも………」 「お父さんやお母さんにも話してあるから大丈夫っ♪」 「そ、そう………って、話したのっ!!??」 そ、それは流石にまずいような気がするんだけど!? い、今からでも訂正することは……… 「お母さんも凄く喜んでたよ〜♪」 ……………無理…かもね。うん……… 「ねぇ、理樹くん」 「な、なに?」 小毬さんが、僕に近づいてくる。そして、笑顔になってこう言った。 「………抱きしめちゃいなよ、ゆー♪」 ………………………はい? 「え、や、その………こ、小毬さん?」 「なに、理樹くん?」 「………本気………ですか?」 思わず敬語になってしまった。小毬さんは、ニッコリ笑顔になって――――――― 「うんっ、もちろんですよっ♪」 ……………えーと。 「さっきから色々言いたいことはあるんだけど、その………どうしていきなりそうなるの?」 「えーっと、お兄ちゃんのことを話したから………かなぁ」 「えっ?」 「話したら………何だか理樹くんに抱きしめてもらいたくなったのですよ………///」 小毬さんの顔が赤い。うぅ………そんな顔されるとこっちも恥ずかしくなってくるんだけど。 「……………ダメ?」 「いやっ………そんなこと、無いけど」 小毬さん………その上目遣いは………止めて欲しいんだけどなぁ。その………僕のほうが凄く恥ず かしくなってくるってゆーか。 「えと………じゃあ」 「………うんっ」 ポスッ―――――― 僕は、小毬さんを静かに抱きしめる。ふわっと柔らかく、甘ったるいお菓子の匂いが漂ってくる。 何だか凄くドキドキしてきた。えと………なに、話したらいいんだろ? ええっと……… 「りきくん………凄くあったかいね」 「え、あ、うん………」 僕の胸に顔を埋めながら小毬さんが言う。僕はかなりテンパっていた。かろうじて頷きながら返事 をするのが精一杯だった。 「理樹くんに抱きしめてもらうと、凄く安心するよ〜」 「あ、安心って………お、お兄さんみたいだからとか…かな?」 「うーんと………それもあるけど」 けど? な、何? 他にも理由が? い、一体なんだろう? 「わたしが………理樹くんのこと大好きだから……だよっ♪」 ………………………。 「ふぇ? 理樹くん顔真っ赤だよ〜」 「………こ、小毬さんだって」 そう言い返すのが精一杯だった。ここまでストレートに言われて照れないほうが変…だと思う。 「えへへ♪ 理樹くん、大好きですよっ♪ 鈴ちゃんには絶対に負けないからっ♪」 「う、うん………」 「だから理樹くん。これからも、どんどんアピールするからねっ♪」 「うん………まぁ、お手柔らかに」 うぅ………なんか、小毬さんが凄く可愛く見える。鈴がここにいなくて良かったかもしれない。い たらいたで、凄く大変なことになる気がする。 「えへへ♪ りきく〜んっ♪」 晩ごはんまでの間、小毬さんは僕の腕の中でずっとニコニコしていた。 ――――――――― そして晩ごはん。メニューは御節だった。なんでも、僕が来るということで、わざわざ晩ごはんに あわせてくれたとのことだ。 うんまぁ………それは凄く嬉しかったんだけどね。 「理樹くん、あ〜ん♪」 「こ、小毬さん………その………」 「遠慮しないで食べちゃいなよ、ゆー♪」 その………どういう状況かは察してくれると凄く助かるんだけど。まぁ………僕たちの目の前にい る小毬さんのご両親の視線が気になって仕方が無いわけで。 「小毬も親離れする年になったのね………ほらあなた、そんな寂しそうな顔しないで」 「あ、あぁ………」 「娘があんなに幸せそうなんですよ? 素直に喜んだらどうなんですか?」 「あぁ………そうだな。そっか………もう小毬も成長していたか………」 おばさんは自分の事のように、凄く嬉しそうにニコニコしている。おじさんは熱燗を片手に寂しそ うにため息をついていた。 いやあの………僕まだ小毬さんを選んだわけじゃ………って、なんか僕凄くヘタレっぽい!? うぅ………やっぱり、いつまでもこんなこと続けてたら………マズイ…よね? 「ノンノン理樹くん。そんな顔してたら御節が美味しくなくなっちゃうよっ。はい、あ〜んっ♪」 「あ、あ〜ん………」 その後、僕の全ての食事は、小毬さんによって口にすることとなった。ちなみに、味のほうはとっ ても良かった。 おばさんの“孫を抱ける日も近いかしら♪”という言葉が異常なまでに耳に残ってしまったのは、 ここだけの話にしておきたい。 その夜、鈴からメールが来た。内容はと言うと―――――― 『理樹、こまりちゃんと一緒に寝たときのじょーきょーとかを、あたしのところへ来たときに全部話 してもらうからな。理樹! あやまちは絶対にするな、いいな!? 理樹をメロメロにするのはあた しなんだ!』 「ねぇ、小毬さん。鈴にも……………」 「うんっ、勿論話したよっ♪ お互い隠し立てはしないって約束だもん♪」 どうやら鈴のところに行ったときは、色々と大変なことになりそうだと、僕は思った。 ‐Fin‐
あとがき えー、お正月記念SSです。 もう正月どころか、成人式も終わったしまいましたけどw 物凄く遅くなってしまいましたけど、とりあえず一作目をお送りいたします。 全部で三部作になる予定です。二作目は鈴、そして三部作は初詣……かな? あぁ………早く書かないと。 それでは、遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。 感想・意見・リクエストがある方は、BBSまたはメールでどうぞ。
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