「理樹………」 目を潤ませ、上目遣いでにじり寄ってくる鈴。 電気も何も点いてない部屋。かろうじて、月明かりが差し込んでくる。そのせいか、目の前にいる 鈴がえらく幻想的で、見てるだけで虜になりそうな気分になる。 「りき………」 「り、鈴!? ちょっと、ねぇ落ち着いて………」 「あたしはじゅーぶん落ち着いてる。理樹こそ、なんで慌ててるんだ?」 「そ、それは………」 このままだと、僕は取り返しのつかないことをしてしまうような気がする。怖い、凄く怖い。でも、 鈴の気持ちは本物だということも、よく分かる。そして、僕の気持ちはまだ……… 「あたしは、こまりちゃんみたいに女らしくない。料理だってまだまだ苦手だ。でも、こまりちゃん には絶対に負けたくない。理樹のこと、すごく好きだ」 声からして、切なさがひしひしと伝わってくる。胸が苦しくなってきた。鈴をこうさせてしまった のは、間違いなく僕なのだから。 「あたしじゃ、だめなのか? そんなに、こまりちゃんのほうがいいのか?」 「鈴………僕は………」 今………ここで出すべきなんだろうか、答えを―――――― リトバスSS 二人っきりの田舎生活(お正月記念SSその2) 〜数時間前〜 「理樹、何して遊ぶ?」 「うーん………」 「早く決めろ! 夜になっちゃうぞ」 「だったら鈴も何か考えてよ………」 僕は、鈴や恭介のおじいさんの家に来ていた。けど、今いるのは僕と鈴の二人だけ。おじいさんは 用事で留守にしており、恭介はもともとこの家に来る予定すら組んでなかったらしい。 まぁ、多分僕と鈴を二人っきりにさせる算段だったんだろうなぁ。この状況を見ればすぐに分かる。 「あたしの考えより、理樹の考えたことがしたい」 「えっと………なんでさ?」 「なんでって………」 鈴はしばし考え、口を開く。 「理樹の事が好きだから………なのか?」 「いやいや、僕に聞かれても………」 ちなみに今何してるかというと、二人でボーッとしてるのもつまらないと言う事で、何かして遊ぼ うと鈴が言い出したのだ。そこで、二人して(というか、殆ど僕一人で)考えてたんだけど。 「せっかく理樹と二人っきりなんだから、しっぽり楽しみたいぞ」 「気持ちは分かるけどさ、そのしっぽりってのはあんまり言わないほうが………」 「なにぃ!? 理樹はあたしと遊びたくないのか?」 「いやいやあのさ、全然会話噛み合ってないから!」 とはいえ、早く決めないと鈴の期限は悪くなる一方だ。えーっと、この辺にあるものと言えば山と 川、それに畑ぐらいだし………川? 「川かぁ………」 「どうした、理樹?」 そうだ………確かこの家には……… 「鈴」 「ん?」 多分鈴も、反対しないはずだ。 「川へ釣りにでも行かない?」 ―――――――― 「理樹、寒いぞ」 「だからこその防寒具でしょ? それに、冬の釣りって言うのも、なかなかのものだと……思うけど」 「でも寒いぞ」 「少しぐらい我慢してよ………」 釣りに来たのはいいけど、やっぱり真冬だけあって寒い。防寒対策はしっかりしてるけど、やっぱ り寒いものは寒い。 動いてるときは、そうでもないんだけど。今は座っているから寒く感じるんだと思う。しかも、釣 りを始めて結構時間がたつ。ちなみに、まだ一匹も釣れてない。 「理樹」 「ん、なに?」 「んしょっ………」 「うわあっ!? ちょ、鈴っ!?」 鈴が僕の上に座る。丁度、僕が後ろから鈴を抱きかかえる形となった。 「理樹、もっと足を開いてくれ」 「う、うん………」 足を開くと、鈴がすっぽりと僕の前に入り込む。僕の目の前には鈴の頭がある。 「これならあったかいな」 鈴は凄く満足そうに頷く。さっきの不機嫌さは何処へ行ったやら。すっかり笑顔になってしまった。 ………って、冷静に思うのもどうかしてるよね、僕……… 「ね、ねぇ鈴?」 「ん?」 とにかく、この体制は落ち着かない。何とかしないと……… 「これじゃ、釣りができないんだけど………」 「もう釣りなんてどうでもいい。それよりも理樹、あたしのことをぎゅーっとしてくれ」 「えええっ!?」 「なんだその叫びは!? そんなにあたしを抱きしめるのが嫌なのかっ!?」 「いやいや、別にそんなこと無いけど………」 そんなことは無いんだけど、その………恥ずかしいしね。 「あたしは理樹に抱きしめて欲しい。理樹にぎゅーってされたい」 「鈴………」 結局、折れるのは僕のほうだった。 僕は釣竿をおき、両手で鈴を抱きしめる。途端に鈴は借りて来たネコのように大人しくなる。と言 うか、元々ネコっぽい鈴がネコのようになるって言うのも、なんか可笑しいってゆーか……… 「理樹、なに笑ってるんだ?」 「あぁいや、別に大したことじゃ………」 「うー、それじゃ凄く気になるぞ。いいから話せ!」 「うん………その、今の鈴ってネコそのものだなーって思って」 「…………………」 あっ………やっぱり、機嫌悪くしちゃったかな? 「理樹は………」 「えっ?」 「理樹は、ネコのあたしは嫌いか?」 「鈴、なに言って………」 「ネコみたいなあたしよりも、女の子っぽいこまりちゃんのほうが好きなのか? もしそうなら、あ たしはネコみたいになるのをやめる。理樹に嫌われるのは、凄くイヤだ」 鈴が不安そうな顔をして見上げてくる。そんなつもり、全然無いんだけどな。 「大丈夫だよ、鈴。僕は今の鈴が一番良いって思ってるから。だから、別に無理して変わろうとかし なくて大丈夫だよ」 「ホントか? ホントに、今のあたしが一番好きなのか?」 鈴が僕に圧し掛かるかのように顔を近づける。そこまで反応する程でもないと思うけど。 「うん………まぁね。だから、無理に………」 「じゃあ、こまりちゃんとどっちが好きなんだ?」 「……………………えっ?」 えと…その……………なんで話がそういう方向になるんだろう? 「むぅ……………そうか。まだあたしは理樹をメロメロに出来てないのか………うーむ」 「り、鈴?」 返答しないことから、僕の考えを読み取ったらしく、なにやらブツブツ言っている。 「………………………………よしっ」 鈴が何かを決意したんだろうか? 小さく握りこぶしを作って気合を入れている。 (ピクンッ―――――!!!) 「あっ………」 「なんだ?」 置いてあった釣竿が、獲物を捕らえて引いていた。 ――――――――― その後、小さい魚数匹分を釣り上げることに成功し、晩ごはんのおかずの足しになることが出来た。 最も、材料は十分に余裕があったため、魚が釣れなかったとしても何とかなっただろう。 でも、普通ここまで材料がぎっしり揃っているのも妙だなぁ、と思った。 (恭介が………準備したんだろうなぁ) 何故だかそう思えて仕方が無い。現に、この田舎に来るまでの運賃は恭介が用意してくれたのだ。 まぁ、どんな風に用意したのかは考えないで置くことにするけど。 けど、恭介は本当にここにはいないんだろうか? あの恭介が準備するだけして自分は参加しない とは思えなかった。人一倍楽しいことが大好きな、あの恭介が。 何か、変な所でひょっこり登場しそうな気がするんだけど………まぁ、今は考えなくてもいいか。 「理樹、お風呂わいたぞ」 「ありがとう。せっかくだから、鈴が先に入ってよ」 わざわざ風呂の準備をさせておいて、自分が先に入るのは気が引ける。別にすぐに入りたいわけで もないし、後でもよかった。 「それじゃ、お湯が冷めてしまう。理樹、お前が先に入れ」 「鈴が早くあがれば大丈夫だよ。いいから、先に入りなって」 「うー……………」 中々頷く様子を見せない鈴。この分だと、そう簡単に折れてはくれないだろう。けど、早く説得し ないと、せっかくのお湯も冷めてしまう。 「だったら、一緒に入るとか? それなら、どっちが最初ってわけでも…って、ダメだよねぇw」 いくら鈴でも、一緒に入るなんて大胆なマネは……… 「……………理樹がそうしたいなら………いい」 へ? えっと、あの………鈴? 今、何て言ったの? 「り、理樹! 早く入るぞ。冷たいお風呂なんてイヤだっ!!!」 そういって、鈴は僕の腕を引っ張ってお風呂場へ連行しようとする。って、いやいやちょっと! 「り、鈴! マズイよ、そんなの!」 「マズイって何がだ!? あたしが理樹と一緒にお風呂に入るのがそんなにマズイことなのか!?」 「や、だからね?」 「あ、あたしは全然まずくなんか無いぞ! む、むしろ………」 「り、鈴?」 「理樹なんか………」 鈴の方が震える。 「理樹なんか嫌いだーーーーーーーっ!!!!!」 バンッ!!! 鈴はそう叫び、戸を強く閉めて出てってしまう。居間には、僕一人が残された。 「鈴………」 僕は………一体何をしてるんだろう? 鈴の気持ちなんて………分かってるはずなのに。 何をしてるんだろう? 鈴や小毬さんの気持ちは、真剣だって分かってるのに……… 「鈴………」 僕の声は、鈴には届かなかった。 ―――――――――― あれから、鈴と言葉を交わすことは無かった。 何て声をかければいいのか分からず、雑談をしようにも、鈴は返事をしてくれることも無い。 結局、すれ違ったまま、布団に潜り込む羽目になってしまった。 「……………最低だ、僕って」 鈴を怒らせたのは、間違いなく僕のせいだ。だったら、僕がすれ違いを直すのが筋というものだ。 ゴメン、って謝ればよかったのだろうか。それとも……… 「選ばなければ………だめなんだよね」 そうだ。そもそもの発端は、二人からのアプローチだったんだ。 鈴も小毬さんも、十分に真剣だと言うことはよく分かる。だから、僕は答えないといけない。いつ までも、はぐらかす事は出来ない。 けど、まだ僕はどちらかを選べないでいる。両方とも、なんてマヌケな答えは絶対に出したくない。 だったら………どちらかを選ぶしかない。選ばないなんて選択肢は………最低だと思うから。 「寝よう。明日………鈴に謝らないと」 まずは鈴に謝ることが先決だ。明日の朝、一番に謝ろう。うん、そうしよう。 スッ―――――― (えっ?) 障子が開く音。誰かが部屋に入ってきたのだ。誰かって………いまこの家には僕と鈴以外は……… 「………っ!!!」 「!!!」 思い切って起き上がって見る。すると、パジャマ姿の鈴がそこにいた。 「鈴………」 「……………」 月明かりのおかげで、部屋が微妙に明るい。だから、鈴の姿も把握できる。鈴の表情は、何処か切 なそうだった。 「鈴………ごめん。僕が、怒らせちゃって悪かったよ。ホントに、ごめん」 「理樹は………悪くない。悪いのはあたしだ」 「そんな………どう考えても悪いのは―――――」 そのときだった。 「そんなことどうでもいい。それよりも、理樹………」 鈴が僕に近づいてくる。四つんばいになって、上目遣いになって………って! 「り、鈴!?」 「理樹………好きだ」 「鈴………」 ―――――――――― やはり、ここでハッキリ答えを出すべきなんだろうか? そうしたほうが僕にとっても、鈴にとっ ても……… 「鈴、僕は………」 「………………」 僕は考えていた。凄く迷った。いや、今でも迷っているのかもしれない。それでも、答えは出すべ きだということも考えていた。 もう、潮時なのかもしれない――――――― 「僕は―――――――」 ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッ―――――― 「………………………」 「………………………」 えーっと、僕の携帯が鳴ってる………よね。とりあえず、とったほうが………いいよね? ピッ! 『よぉ、理樹。鈴とは上手くやってるか? せっかく、ここまでお膳立てしたんだ。どうせなら行く ところまで行っちまっても良いんだぜ? その暁には俺の事を“お義兄ちゃん”と………』 あぁ、恭介。本当に恭介は凄いよ。色んな意味で窮地を救ってくれた。うん、良い意味でも悪い意 味でもね。 あ、鈴が凄く怒ってる。髪の毛がユラユラ揺れてるよ。 「きょーすけ………」 「おっ、鈴もいたのか。どうだ? 理樹とは上手いことやれたのか?」 恭介はこっちの事も知らずに愉快な声で話しかけてくる。そうだ、せっかくだから……… 「鈴、鈴!」 「ん?」 「ちょっと………」 僕は鈴に耳打ちをする。鈴はチリン、と頷いた。 「………言いたいことがある」 『おっ、何だ鈴?』 「お………」 『お?』 ためらっていた鈴だったけど、思い切ってその言葉を口に出した。 「………お、お兄ちゃん」 『……………っ!!!!!』 あ、恭介が感動してる。顔は見えないけど、多分そうだ。 「お兄ちゃん………一言いいたいことがある」 『ぐはあっ、な、何だ鈴?』 鈴は一息吸い込み、そして叫ぶ。 「お兄ちゃんなんてだいっ嫌いだーーーーーーーーっ!!!!!」 ………あれ? 電話の向こうが静かになっちゃったな。………大丈夫かな、恭介? ピッ! 鈴は黙って電話を切り、そして僕のほうを向く。 「理樹、あたしもここで一緒に寝る。そうしたら、さっきの事は許す」 「あ、うん。良いよ、一緒に寝よう、鈴」 途端に鈴は笑顔になり、僕の布団に潜り込む。僕もすぐに布団に潜り込んだ。すっかり体が冷えて しまってたからだ。 「鈴、体が冷たいね」 「理樹も、凄く冷たいぞ」 さっきまでの気まずい雰囲気は、どこかに吹き飛んでしまっていた。いつもの、僕たちの雰囲気に 戻っていた。 「理樹」 「なに?」 「こまりちゃんと一緒に寝たときの事、話してくれ」 「……………えっ?」 り、鈴? 何でここでそんな話持ち出すのさ? 「いま思い出した。素直にはくじょーしろ、理樹」 「………分かった、言うよ」 また鈴の機嫌を損ねるのもアレなので、僕は素直に話した。 とりあえず、小毬さんとの事を話した後の鈴は、小毬さんに負けないくらいに僕に対して甘えてき た、と言うことだけ言っておこう。 うん、いつもの鈴とは思えないくらいの、甘えっぷりだった―――――― ―――――――――― 「ただいまー………うおっ!? な、なんだよこれっ!?」 「真人、頼む! 恭介を止めてくれ!!!」 真人が部屋(寮の自分の部屋)に入ると、そこは異様な光景と化していた。 「止めないでくれ謙吾。所詮、やり方が強引だったんだ。もう俺には、アイツの兄でいる資格は ねぇんだよおぉぉぉぉっ!!!」 恭介が泣きながら首吊り自殺しようとしていた。原因は………まぁ、言わずとも分かるだろう(汗 「とりあえず落ち着け恭介! そうだ、理樹たちに電話を………」 「理樹………うおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」 「真人! 貴様あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」 「うおっ!? 何だよ!? 俺何か悪いこと言ったのかよ!?」 三人の夜は、まだまだ静かになりそうもなかった。 ‐Fin‐
あとがき お正月記念SS第二段です。いかがでしたでしょうか? 今回は鈴と理樹の二人芝居でした。 冒頭のやり取りは、個人的に気に入ってます。けど、最後はもっとお気に入りw さて、そろそろネタも尽きてきた頃なんですけど、もう一話続けようかと思います。 いままでの二つのまとめみたいな形でいきます。 もっとも、このシリーズ自体は当分続く予定なんですけどねw それでは、読んでくださった皆さん、ありがとうございました。 感想・意見・リクエストがある方は、BBSまたはメールでどうぞ。
‐戻る‐