「「「はぁ〜〜〜〜〜〜」」」


 今日も今日とていつもの登校………のはずだったんだけど、さっきから恭介、真人、謙吾の三人か
ら、あからさまなため息が連発している。

 う〜ん。これってやっぱり突っ込んだほうがいいのかなぁ?


「「「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」」


 あ、さっきよりも長くなった。………さりげなく僕のほうを見ていたほうな気がするんだけど。

 うん………まぁ、とりあえず。


「三人ともどうしたのさ? そんなため息ついたりしてさ」

 と、聞いてみた。


「なんだ、聞こえていたのか理樹。そうか、それはすまなかったな。はっはっは♪」

 いやいや謙吾。あからさまに僕に聞こえるようにやってたでしょ?

「なんだ理樹。そんなに俺の事が気になるのか? 全く、いつまでも甘えん坊だな、お前は」

 恭介? 別に僕そんなこと言ってないよね?

「理樹。気にしてくれるのは嬉しいが、俺の筋肉の唸りが………ふっ、参ったぜ」

 真人、もう何言ってるのかワケわかんないから。


 ……………もうとりあえず、放っておくことにしよう。うん、そうしよう。


「って、おい理樹!? なんで先に行っちまうんだよ!?」
「なっ!? まさか、この俺に愛想をつかしてしまったのか、理樹っ!?」
「待てよ! 俺とお前の筋肉友情はそんなものだったってのか!?」


 ………まぁ、いつものことだよね。うん。


「で、元気がないみたいだけどどうしたのさ?」
「ぐっ………やはり言わないとダメか………」

 いや、そうでもしないと話進まないみたいだし。

「仕方が無い。いいか理樹、今日は――――」
「今日は?」



 ため息をつきながら、恭介は言った。




「今日は………バレンタインデーだ」





リトバスSS 乙女たちの戦い(バレンタイン記念SS)





「え、あぁ、そういえばそうだったね。でも、なんでため息なんか?」

 バレンタインだからって、別にため息をつくほどの事ではないような気がする。ましてや、恭介や
謙吾は毎年のように女子からチョコを貰っているって言うのに………

「貰うほうも大変だ、ということだ。毎年断るのも大変なんだぞ」
「あぁ………」

 そういえば、謙吾は頑なに女子からのプレゼントは拒んできてたような………。今年もきっと、
同じように断るんだろうか?

「やっぱよぉ、一個ももらえないってのも寂しいっつーかよ………」

 まぁ、真人の気持ちも分からなくはないけどね。

「今年は………鈴からは貰えなさそうだからな」
「え、どうしてさ………って、ねぇなんで皆してそんなあきれ果てた目で僕を見るの?」

 恭介が、謙吾が、真人さえも、ぼくのことを“うわ、コイツ何言ってんだ?”と言いたそうな顔し
て見てくる。僕、別にへんなこと言った覚えないんだけどなぁ………


「はぁ………さらに理樹は遠くへ行っちまうってのか?」
「言うな。もう腹は括っているだろうが」
「ふっ………俺達の知らないところで、いろいろと変わっていくというものさ」


 ……………なんか、いつにも増して三人の様子が変なんだけど。一体全体どうしたんだろ?


「しかし、なんだな。バレンタインと聞いて未だにこれから起こりうる状況を予想してないというの
もどうかと思うがな」
「まぁ、理樹らしいじゃねぇか。それこそ今更ってもんだろ」
「ちぇっ。もう理樹と二人でモテないヤツ同士で乾杯できねぇのかよ、くそっ………」


 これから起こりうる状況………謙吾は一体?




 状況………僕の今の状況………鈴と小毬さ………



「あっ――――――」



 まさか………いやでも…あの二人なら………



「気づいたみたいだな」
「ま、俺達は温かく見守ってやろうぜ」
「理樹。この筋肉が必要ならいつでも言いな!」



 ……………なんだろう?


 校舎が何となく処刑台ってゆーか………なんかそんな風に見えてきた。




――――――――――




「やはー理樹くん」

 教室に入ると葉留佳さんが飛びついてきた。

「うわっ!? ちょ、なに!?」
「いやー、愛しの理樹くんにプレゼントをしたくてさ」



 ぴきっ―――――



「どうしたの、理樹くん?」
「え、あ、いや………」

 な、何だろう? 今なんか空気に亀裂が入ったような感じが。

「えと、葉留佳さん? とりあえず離れてくれると凄く嬉しいんだけど………」
「えぇー? 良いじゃないですカ。いつもは鈴ちゃんやこまりんが占領してるんだし♪」

 あー………まぁ、それは否定できない…けど。

「だ・か・ら♪ 今日ぐらいは私もアピールしたいと思ったのですヨ。はい、コレ♪」

 そういって、葉留佳さんはラッピングされたチョコを取り出す。うん、何処からどう見てもハート
型にしか見えない。しかもリボンまで………

「ふっ………モテモテだな少年よ」
「修羅場を迎えようとしている直枝さん………これはこれで見ごたえがありますね」


 来ヶ谷さんはいつもの事だとして、西園さん………もしかしなくても楽しんでるよね?

 修羅場って………うわぁ、鈴や小毬さんがこっちをジーッと見てるよ。なんか、笑顔や無表情なの
に凄く威圧感を感じるってゆーか………とにかく怖い。


「リキーっ。私のチョコも受け取ってくださいなのですーっ♪」
「では、私のも………どうぞ」
「ありがたく受け取れ、理樹君」

 クドが、西園さんが、来ヶ谷さんがそれぞれ僕にチョコを渡してくる。最も、この三人は僕限定で
はなく、他の男子メンバー(つまり真人や謙吾、恭介の三人)にも配るみたいだった。

 けど………



「「(じぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ)」」



 えと、あの………小毬さん、鈴? 如何してそんなに僕のほうを見てくるのかな?

「理樹くん理樹くん」
「え、なに葉留佳さん?」

 葉留佳さんが僕を呼ぶ。というか、僕の顔を覗き込んできた。

「ちょっと一緒に来てくれないカナ?」
「えっ、なんで?」
「いーからいーから♪」

 そういって、葉留佳さんは無理やり僕を立たせて、そのまま手を繋いで教室まで引っ張り出した。



「わふーーーーーっ!!?? 鈴さんや小毬さんから凄いおーらがっ!!??」



 ………クドの叫びはとりあえず聞かなかったことにしよう。




――――――――――




 葉留佳さんに連れてこられたのは、人気のない階段の踊り場だった。

「で、どうしたのさ?」
「理樹くんにもう一つだけプレゼントしたくて」
「えっ、何を?」

 よく分からない僕は首をかしげる。すると、葉留佳さんはポケットから一口サイズのチョコを取り
出し、口に含む。そして………


「えっ………ちょ、葉留佳さ…んっ!?」
「んんっ………んっ………」


 葉留佳さんが、唇を押し当ててくる。そして、葉留佳さんの口の中に入っていたチョコが僕の口の
中に入り込んでくる。

 あまりの突然さに僕はパニックになる。口移しをされているという事実に、頭が追いついていない。


「ん………はぁ………」
「あ……えっ…や……その…は、葉留佳…さ………ん? えと、そのあの………あれ?」

 唇が離れる。葉留佳さんは熱っぽい視線を送ってくる。えっと………僕はいまキスされて………


「ゴメンネ理樹くん。でも、私だって負けたくなかったから………」


 葉留佳さん………泣いてる? えっ…でも………そんなことって………

「へへっ………じゃね、理樹くんっ♪」


 葉留佳さんは、階段を下りていった。呆然としている僕一人を残して………




 オレンジ風味のチョコの味が、まだ口の中に残っていた―――――




―――――――――




 そして、昼休みになると―――――


「理樹っ」
「理樹くんっ」

 鈴と小毬さんが揃って僕に話しかけてくる。表情は何時も通りなのに、なんか何処か違うような雰
囲気を醸し出していた。


「ちょっと一緒に来い!」
「えへへ♪ 素直に来ちゃいなよ………ゆー♪」


 ………僕には選択の余地はないんだと悟った。席から立ち上がり、小毬さんと鈴に挟まれて歩く。
腕をガッチリ組まれているのはもはや言うまでもないと思う。


「理樹………強く生きるんだ!!!」


 謙吾の言葉が、僕の心に染み渡ってきた。




 そして、やってきたのはいつもの屋上。ドライバーでねじを外し、窓から屋上に出る。


「今日も良いお天気だね〜」
「(ちりんっ)」

 何だろう? なんかほのぼのと出来ない。まさかとは思うけど………

「理樹」
「な、なに? 鈴………」

 鈴が凄く真剣な表情で僕に向き合う。

「はるかと何していた?」
「えっ………!?」


 やっぱりね。うん、何となく予感はしてたんだ。あの後………教室に戻ったときの、あの雰囲気を
見たら………


「べ、別になにも………」
「だったら、なんで理樹からはるかの匂いがするんだ?」

 ………り、鈴が凄く怖い。こ、小毬さんは?

「理樹くん。素直に喋っちゃいなよ、ゆー♪」



 ……………うん、もう話そう。話すしかないみたいです、ハイ。




―――――――――




 全てを話したとき、二人の表情はかなり神妙なそれだった。


「そうか………葉留佳はそんなことをしたのか」
「うんっ、はるちゃんも凄い積極的だね」


 屋上に三人して座っている。勿論、僕を挟む形で。小毬さんも鈴も、完全に笑顔が消えていた。

「こーなったら、鈴ちゃんっ」
「なんだ、こまりちゃん?」
「私たちも負けてられないよっ!!!」
「む………それはそうだな。でもどうするんだ?」

 鈴が首をかしげる。すると、小毬さんは待っていましたといわんばかりに笑顔になり、

「そんなの決まってるよ〜〜〜♪」

 と、言い放った。


(………あれ? なんか急に寒気が?)


「りきくん」
「なに、小毬さ………!!!」

 小毬さんのほうを振り向くと、突然小毬さんが僕の口をふさいできた。


 小毬さん自身の唇によって。


「なあああっ!!??」

 鈴の叫び声が聞こえる。だが、僕は目の前で起こってる出来事のほうで頭が一杯だった。

「ん………んんっ………」
「んん………」

 僕の口の中に、甘い甘いチョコレートが転がり込んできた。そして、小毬さんは静かに唇を放す。


「えへへ♪ ………チョコ………どうかな?」
「……………うん………甘かった」


 それが精一杯だった。目の前には顔を赤くした満面の笑みを浮かべた小毬さん。さっきのが原因で、
とても直視できない。

「……………りきっ」
「え、なに………むぐっ!!??」

 振り向きざまに、鈴が強引に僕の唇を奪った。なんか後ろで“わおっ♪”なんて声が聞こえてくる
けど、今はそれどころじゃない!

「んっ………んんっ………はぁ…んっ」
「んんっ………」

 僕の口の中に………チョコが…流れてきた。

「………っはあっ……はぁ………」
「はぁ……ふぅ………」

 息苦しくなって唇を放す鈴。僕も、突然の出来事が立て続けに起こり、混乱と恥ずかしさでどうに
かなってしまいそうだった。

「………りき」
「え? ………っ!!!」

 鈴が再び、僕の唇に近づく。そして………

「ん………はぁ………」


 僕の唇を、ペロペロと舐め始めた。もう僕は動くことも喋ることもできなかった。成り行きに身を
任せることしか出来なかった。

 もう………何も考えられない。


「ほわあっ………鈴ちゃん大胆だね〜〜〜。………よぉしっ♪」


 ………あ、小毬さんも近づいてきた。………二人で、ぼくのくちびるを………



「んっ………ふぅ………ふふっ♪」
「ん………りきのくちびる………あまい………」



 甘いって………そんなもんじゃない。なんか………痺れるってゆーか………




 なんか………まっしろに………なってきた。




 まっしろに………何もかも………




「りきくんっ!?」
「りきっ!?」




 二人の叫び声とともに、僕の意識は途切れた。




―――――――――




 その後、僕は自室のベッドで目を覚ました。真人の話では、恭介が運んでくれたらしい。

 で、その恭介はというと………


「なんでお前らここにいるんだよ? つーか、それは一体なんだよ?」
「今日一日で貰ったチョコ全てだ。くそっ、去年の倍はあるぞ、これは………」
「同じく、断りきれずに貰ってしまった。流石に一人じゃ消費しきれないからな。だから手伝ってく
れ、我が親友達よ!」


 大量のラッピングチョコを持ち込んでいた。しかも謙吾も一緒だった。真人は心底うざったそうに、
二人を睨んでいる。だが、当の二人は期待の眼差しを真人と僕に向けていた。


「理樹。気がついたか。さっそくだが………」
「理樹、よく目を覚ましてくれたな。俺は嬉しいぜ」
「おい、大丈夫かよ理樹?」


 ……………チョコ………ちょ………こ………




「……………(ふぅっ)」




 バタンッ!!!


「うおおっ!!?? り、理樹が倒れたぞっ!!??」
「なんだとぅっ!? 理樹っ、どうしたんだ?」
「おいおい、どうしちまったってんだよ!? ………静かに、何か聞こえるぞっ!!!」




「………………チョコが………唇が………甘い………まっしろ………」




 その後。僕の部屋はパニック状態になったことは、想像に困らないと思う。




 ちなみに、今日の事が原因で、チョコに関して若干トラウマになりつつあったのは別の話。




「ねぇねぇ理樹くん。ホワイトデーのプレゼント、楽しみにしてるからねっ♪」
「理樹………忘れたらけり倒すからなっ!!!」




 僕………もう少し強くなったほうがいいのかな?




‐Fin‐




あとがき 遅くなりましたが、バレンタインSSです。 今回はもうはっちゃけました。えぇ、はっちゃけましたとも! もうなんかこう、あっま〜〜い空間になっちゃったよ、って感じですねw 想像するだけで………ゥワッホウゥーーーーーーッ(壊 ………すみません、取り乱しました。 さて、それではまた次の記念SSでお会いいたしましょう。 それでは。 感想・意見・リクエストがある方は、BBSまたはメールでどうぞ。
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