愛佳SS 書庫時間外活動




 朝このみを起こしに家に行き、その後タマ姉と雄二ともいつもの場所で待ち合わせし、一緒にくだ
らない話などをして学校に行く俺、河野貴明の今日もまた、そんな何気ない一日が始まった。

 でも、今日は何かが違うような感じがしていた。何とは言い表せないがこう、なんというか……




―朝、通学中―

 

「おはよう雄二、タマ姉」
「ふぁ〜、おはようユウくん、タマお姉ちゃん」
「おはようタカ坊、このみ」
「ういっす」

 といつもの挨拶をかわし、学校へと向かった。そこまではいつもと変わらなかったが―――

「貴明、そういえば最近委員ちょといつも一緒にいるよな」

 と雄二がなぜか愛佳の話を持ち出したことに始まった。とりあえず、

「え、ああ、まあ」

 と答えておいた。しかし、

「「委員ちょ」ってクラス委員長の小牧さん? タカ坊、いつも一緒ってどういうこと?」

 と、タマ姉がなぜか目を細めて、聞いてきた。こういうときのタマ姉にうそをついてアイアンクロ
ーをやられるのはごめんだし、特に差し支えないので、

「いつも一緒と言うか、ま…小牧さんが書庫の整理をしているのを見て、彼女一人じゃ大変そうだっ
たから、俺も手伝っているんだよ」

 と答えた。

「ふーん」

 タマ姉ももう聞いてこないだろう、と言うかそこで愛佳の話は終わるはずだった。そう思ったのだ
が、

「ねえタカ坊、さっき「小牧さん」の前になんと言おうとしたのかしら?」

 しまった!「愛佳」と言いそうになって言い直して、聞こえてないかと思ったんだが、聞こえてい
たか。

「お姉ちゃん、そこのところ詳しく知りたいな」

 あ、あ、目がもう捕食者の目になっていますよ!?

「タカくん、隠し事はよくないでありますよ」

 このみまで!?よし、ここは事情を知っている雄二に援護――――

「貴明、説明責任はちゃんと果たせよ」

 してもらえねー!!って言うかなんか詰め寄られているし!

「い、いや別に何か言おうとしたわけでは」

 無駄だとは思うが一応言ってみる。

「ウソよ。じゃああの間は何だったの? なんか「小牧さん」と言う言葉を捜して選んでいたと言う
感じがしたけど」

 やっぱり無駄だったか。でもどうやら「ま…」と言いかけたのはばれなかったようだ。

「だから…その…そう、小牧さんの名前をちょっと度忘れしちゃって、あはは………(汗)」

 これは半分ウソだが、半分ウソでない。実際、書庫や人目のつかないところでは「愛佳」と言って
いるため、時々苗字を忘れてしまう(と言うよりはパッと言えない)ときもあったりするのだ。…本
当はこんなじゃあ愛佳の彼氏失格なのかもしれないが。そう、正に今の場合がその場合なのだ。

「女の子の名前を忘れるとは、ひどいぞ貴明。いいか、女の子からのLovely度を上げようとしても名
前を忘れてしまったら…ってあだだだだだ割れる割れるわーれーるーっ!!!!!」

 …………一人なんかされているようだが気にしないでおく。

「雄二、タカ坊に変なこと吹き込まないの。でも、タカ坊。女の子に限らず人の名前を忘れたら、そ
れはさすがによくないんじゃなくて」
「そうだよタカ君。名前を忘れたら大変でありますよ」

 どうやら痛いところはつかれていない様である。ほっ。

「反省します。以後気をつけます」
「よろしい。」

 何とかこれでこの話も終わりそう…

「ところでタカ坊」
「なにタマ姉。」
「本当にさっき何と言おうとしたの。私には最初「ま」という言葉が聞こえたような・・・」

 ………まだ追求は終わっていませんでした。




 結局あの後、三人から追及されてとても疲れた。だが、俺は黙秘権を行使し、何とかしゃべらずに
は済んだ。だって愛佳と名前で呼び合っているなんて、このみはともかくタマ姉が知ったら………と
いっても時間の問題か。

 そして今、朝のホームルーム。今日も愛佳が教卓をポムポムとたたきながら、みんなをまとめよう
と必死になっていた。

「みんなー、静まれー!! 静まれってばぁー!!!」

 まあ、いつもの光景といえばいつもの光景か。しかし、クラスの連中も連中だよな。いつまでたっ
てもざわついているって。まるで「委員ちょマジック」発動を待っているようにも思えるのだが。

「おい貴明、何で委員ちょ助けないんだよ」

 後ろの席から雄二が小突いてくる。

「なんでって、そんなことしたら雄二だって分かるだろ。以前味わったあの生暖かい目で見られるの
はさすがにごめんだよ。本当は助けてあげたいけど」
「だったら助けてやらないと。お前委員ちょの彼氏やっているんだろ」
「けど」
「うっ…うううっ、ぐすっ…」
「ほら、発動しちまったじゃねぇか。貴明、あまり彼女を泣かすなよ」
「う…それはそうなんだけど…」

 と、そうこうしている間に、

(やばいぞ、マジ泣き寸前だ)
(これ以上ざわつくとまずいぞ)
(ストップストップ、みんな静かに)
(ほらそこ、早弁しまっ。)

 という様な感じでざわつきは収まっていった。雄二もクラスの連中が静まったため、それ以上は言
わなかった。ちなみに隣のクラスではまだ当分始めるような感じは無い。

「えっと…それではぁ、まず今日の予定についてぇ…」

 やっとホームルームが始まる。しかし委員ちょマジックというのも相当な効力なんだな。しかも、
普通ならマンネリ化しそうなのだがそれが無い。それもちょっと不思議である。

「あ、そうそう、今日の6時間目の国語は、先生が出張のため、図書室にて自習となります。皆さん、
忘れずに来て下さいね」

 図書室にて自習? そりゃ結構いきなりだな。あの先生なら普通、前の時間には言うはずなのに。

「何でも一身上の都合とかで朝からいないそうです」

 はい? 一身上の都合? 普通それって辞職するときとかのの理由に使う言葉だろ? 国語の先生
にしちゃ、言葉の表現が間違っている気がするが。まあそこには深入りしないでおく。

「それじゃあ、いろいろな配布物が来ているので配りますね」

 いつからだろうか。以前の愛佳なら、「関係のある人はプリントを取りに来てください」と言った
途端、連中が一気にプリントを取りに集まって、それが終わった後を見ると「ふにゃ〜」となってい
たのだが。そうだなあ、俺と愛佳がクラスの公認カップルになってからぐらいだろうか。ともかく、
愛佳もいろいろと変わったところがあったが、何よりあの、あの愛佳が、この場面で混乱が起こらな
いように適応したのは少々驚いた。

「っくしょん! 今誰かにさりげなくひどいこと言われたような………」

 ………すみませんでした。




―昼休み―

 4時間目も終わり、教科書とノートをしまう。ほかの連中はしまわず急いで食堂へと向かう。そり
ゃそうだろう、今日の昼飯にうまいものにありつけるかがかかっているのだから。しかも今日はなぜ
かパン屋が臨時休業。余計に競争相手が増す。

 昔の俺だったら、その一員の中に入っていたのだが………

「たかあきくん、それじゃ屋上に行こう」

 そう、今は愛佳の手作り弁当(雄二曰く愛妻弁当)が差し入れられるため、そのような心配が要ら
ないのだ。どこかの男みたいに屋上で彼女とその姉と一緒に豪華ななべにはならないが。むしろそん
な豪華さよりも、愛佳の愛情が詰まっていれば俺はそれでよいのだ。

 ちなみに今、この部屋の中には誰もいない。

「どうしたの、たかあきくん? 早く行こうよぉ」
「あ、ああ、ごめん。それじゃあ行こうか、愛佳」

 そして屋上に行く前に郁乃のところに行く。郁乃も始めは車椅子での生活だったのだが、日常生活
にいたっては、特に支障が無いほどに体も回復していた。

 ………けりの強さが強くなっているのは喜ばしくないことなのだが。

「おねーちゃん、ここに来るまでどのくらいかかっているのよ。早くしないといい場所とられちゃう
わよ」
「ごめんね、それじゃあ郁乃行こう」
「郁乃、行くぞ」
「………あんたに命令される筋合いは無いわよ」

 とか何とか言いつつも、素直に屋上に向かい、三人で昼食となる。とはいってもいつかみたいに、
「あーん」攻撃はしてこない。やっぱり二人だけのお楽しみって言うことで………

「どうしたのたかあきくん?」
「どうせ妄想にでもふけっているんでしょ、こんなバカほっといてさっさと食べましょ」

 いかん。少し意識が遠い世界に飛んでいたようだ。




 そんなこんなで今は6時間目。そう、朝愛佳が言っていた様に図書室で自習となった。いきなりだ
ったため、特に課題もなく、連中は家から持ってきた漫画を読んでいたり、はたまたトランプゲーム
に興じていたり、そのほかは雑談を楽しんでいた。

 さて俺は何をしようか、そう思っていたとき、

「た…河野君、ちょっといいですか?」

 カウンターの影から俺を呼ぶ声、そう他ならぬ愛佳である。

「どうしたの?ま…小牧さん」

 カウンターのほうへよって行く。すると愛佳が手招きをしてくる。ついていくとカウンターに隠れ
るような場所で、愛佳が話し始めた。

「実は今日、委員会の仕事が入っていまして…なので今日は放課後の書庫の整理はなしという事で」
「そっか。じゃあ今日は雄二とかと一緒に帰るね」
「そ、それであの…その代わりと言っては何ですけど………」
「………? どうしたの?」
「今の時間…よければ………やりません?」

 ああ、つまり今の時間書庫の整理をしようと。そうだな、ちょうど何をやろうかとも思っていたし、
放課後出来ないなら………

「分かったよ。じゃあ今から…40分ぐらいだけどやりますか」
「それじゃあお願いします」

そうして二人はカウンターの奥の扉へと姿を消していった。



「あーあ、図書室で自習ってのもなんだかつまんねーな。って言うか貴明はどこに行ったんだ? お
ーい貴明!!!」

 よほど退屈らしく、雄二は話し相手にでもと貴明を呼んだ。しかし返事は無い。

「なあ、貴明どこに行ったか知らないか?」
「さあ」
「あれ、貴明のやつどこへ行ったんだ? トイレか?」

 あちこち図書室の中を回ってみる。しかしどこにもいない。

「ねえ、委員ちょー!! あれえ、委員ちょは?」

 こちらはクラスの女子。どうやら愛佳を探しているようだ。しかしこちらも見つからない。

「あっ」
「おっと」

 そして二人とも図書室の角でばったり会う。

「ねえ向坂君、委員ちょ見なかった?」
「いや。それよりも貴明見なかったか?」
「いいえ、私は見なかったけど」

 二人ともうーんとうなる。そして女の子のほうがポンと何か思いついたように手をたたく。

「ねえ、もしかして二人とも一緒に別の場所にいるとかって考えられない?」
「あ、そうかも知れねえな。何せあの二人、クラス公認カップルだからな」
「でもいったいどこに?」
「そうだなあ」

と、言いかけた途端。

「え、何々? 河野と委員ちょがいなくなった?」
「うっそー!」
「まさか駆け落ち?」
「いや、そこまであの二人に度胸は無いだろ。いくら名前で呼び合っているといったって」

 こんな感じでクラスの連中が興味津々になって話に入ってきた。図書室は静かに使うのがマナーだ
が、もうそんな状態でなくなっていた。

「おい、お前ら落ち着けって。貴明と委員ちょがまた此処に入って来られなくなるだろ」

 雄二はクラスの連中を押さえに入ったが時すでに遅し。図書室のあちこちでいろいろな憶測が飛び
交っていた。

「お前ら、落ち着けー!!!」




「愛佳、この持ってきた本はどうする?」
「あ、とりあえず私の脇に置いて」

 そんな図書室とは裏腹に、書庫では貴明と愛佳が書庫の本整理やバーコード貼り付け(雄二曰く
「愛の共同作業」)をしていた。書庫には二人しかいないのでとても静かである。

「ねえ、たかあきくん。そろそろ休憩にしない?」
「そうだな、それじゃあそうしますか」

 そして二人は休憩(愛佳の淹れた紅茶タイム)にはいった。ちなみに今日は、愛佳が朝、商店街か
ら買ってきた新しい茶葉で入れた紅茶だ。

「愛佳、ちょっと聞いていい?」
「なあに」
「その愛佳が買っている茶葉ってさ、どれ位するの?」
「え、どれ位って?」
「いや、だってさ。普段ご馳走になってばっかりで、お茶とかお茶受けのお金ってどうしているのか
なって思ってさ。だから、もしよかったら半額くらいは俺が持ったほうが………」
「い、いえ、そんな、結構ですから。たかあきくんは気にせずに召し上がってください」

 愛佳、あせって敬語になっているぞ。

「いや、「気にせずに」と言われても…………」
「いいんですよ、私の好きでやっているんですから」
「いやそうは言っても」
「いいですから」

・

・

・

 この調子だといつまで押し問答が続くのだろう、と思ったとき。そういえばなんだかさっきから図
書室のほうが賑やかになってきたな。何かあったのか?

「愛佳、やけに図書室のほうが騒がしくないか?」
「そう言われてみると………」
「ちょっと様子覗いて見る?」
「うん」

そして二人で図書室側のドアを開けた。

「一体どうしたんです?図書室で騒いじゃだめですよー」

一気にざわつきが無くなった。あれ?


「「「委員ちょーー!!!」」」
「「「河野――!!!」」」


 何なんだ? 何かみんなハモッているし。

「何だ、どこに行ったかと思ったら、「愛の共同作業」をやりに行っていたのか。ハァ、お前らがい
きなりいなくなったから、図書室に中はいろんな憶測が飛び交って押さえつけるのに大変だったんだ
ぞ」

 そんな中、雄二が割って話す。
 だから「愛の共同作業」と言う言い方止めろって。結局何を騒いでいると思ったら…何だ、そんな
ことで………

「そんなことって何だ、そんなことって!!こっちはクラスの連中がいつ暴走してもおかしくなかった
んだぞ! チクショー、「愛の共同作業」をやっていたらこんなことはお構い無しってか!!! あ
ーもう、お前ばっかりいい思いしやがって! 俺の立場はどうしてくれるんだよ、え!?」 

 あ、雄二が壊れてきた。まあ、こいつのことだからほっとけば直るだろう。
 まあそんなことはどうでもいいんだが、なんかみんなすごく静まっていないか…

「おい貴明! どうけりをつけてくれるんだよ! ちったあ協力している俺の立場や身にもなってみ
ろってんだ!」

 おい、雄二、後ろ。

「そーか、そーか。向坂の立場や身になってみるとか」
「ああ、そうだよ! …って先生!?」

 恐らくこの騒ぎを聞きつけたのだろう、担任の先生が雄二の後ろで仁王立ちになっていた。

「そうだなあ。向坂の立場や身になって考えてみると、この成績じゃあ今後がとても心配だなあ。そ
れに今の時間は何だ? 図書室で自習だってのにデカイ声だしやがって。ほかのところから苦情が来
てるんだよ。ちょっと俺に付き合え」
「え、な、何でですか!」
「何でって、お前の身を案じて、俺が救いの手を差し伸べてお前を更生してやろうってんだ。なんか
文句あっか?」
「い、いえ、何も」
「じゃあちょっと付き合え。それと、向坂だけじゃないぞ、お前らも静かにしろよ」

 担任の先生は有無を言わせない感じで雄二を黙らせ、そして連行していった。そしてみんなで合掌。



 その後雄二はどうなったかを知るものはいなかった。とりあえずこの時間に帰ってくることは無か
った。




 そしてやっとどたばたした6限が終わった。
 ホームルーム後、愛佳は予告どおり、委員会の仕事のほうへ向かった。

 俺のほうはというと、雄二と帰る当てもなくなったので、とりあえずまっすぐに帰宅した。ちなみ
に郁乃は愛佳と一緒に帰るため、図書室にいる。

 ああ、今日も一日変なところで疲れたなあ。別のゲームの主人公の名言が、今の俺にぴったりだな
あ。…かったりぃ。

 とりあえず部屋に入ってベッドに横になる。

 そういえば今日の朝、いつもと何かが違う感じがするなと思ってはいたが、まさかこんなことだっ
たとはな。でもまあ、今日も一日無事に過ごせたことに感謝。

 

〜アナザービュー 雄二〜

 くっそーあのセンコー、いつまでも俺を拘束しやがって。おかげでありがたーいお話がいつも以上
に聞けたわ。

 と言うか元はみんなが騒ぎ出したんだろ、そしてその原因は貴明…覚えてろよ。いつかお返しして
やるからな。フフフ…俺の恨みは一生消えないからな。

 おっと、なんだかんだ考えているうちに家に着いたな。

 さーて今日は憂さ晴らしに緒方里奈の秘蔵DVD全巻見ようかなぁ。いや、この間買ってきたベス
トショット写真集も捨てがたい………

「ゆ・う・じ。お早いお帰りね」

 い、今見てはいけないようなものを玄関の前に見てしまった様な………反射的に後ろを振り向く。

「担任の先生に聞いたわよ。一体今日のことはどういうことかしら? それに雄二、この成績は何?
これは私の教育的指導が必要不可欠みたいねぇ」

 や、やばい。逃げようにも体が固まって動けない。あ、腕がとられちまった。

「今日は夕飯抜きでみっちり勉強ね。くれぐれも逃げようなどとは考えないように……分かったわね、
雄二」
「わ、分かりましたお姉さま」
「よろしい。では早速………」

 

 そして部屋に連行さて、椅子に縛り付けられた挙句夕飯お預け、腹が鳴る中夜中まで勉強and姉
貴の教育的指導を受けさせられた。


 あーもう、何で俺ばっかりこうなるんだよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!





〜アナザービュー エンド〜


 夜中の3時、貴明の部屋。

「誰だよこんな夜中に叫びやがって…ムニャムニャ…愛佳ぁ…俺が一生そばにいるからな…」


 そして時を同じくして愛佳の部屋。

「たかあきくん、大好きだよ…いつまでもそばにいるよぉ…」




終わり





あとがき (仲龍(なかりゅう)様より) 構想はちゃっちゃと思いついたのですが、何せ書く時間が無く、暇を見つけて書いたので 最初と終わりで少々表現方法が異なっています。 初めての通常ノベル形式でしたが、まあまあでしょうかね。 後、最後の貴明と愛佳ですが、同棲という事も考えたのですが、自分がまだそういうものを 書く免疫ができていないため、書けませんでした。 (別名ヘタレとも言う。)
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