郁乃SS「私と姉と河野貴明」 ―朝七時 小牧家― うーん、なんかまぶしいな。それになんか下がうるさい…もう朝? えーっと………今、7時ぐらい? なによもう、今日はやけにどたばたして……… どーせ、いつものことでしょうけど。 ……ドタドタドタドタ その音がだんだんと近づいてきて、がちゃっと私の部屋の扉が開く。 「いくのぉ〜あさだよ〜」 ……うー、今日はなんかとっても布団から出たくない。 「いくのぉ〜、起きて〜もう時間だよ」 ユサユサ というよりはお姉ちゃんの声が余計に眠気を誘うんだけど。しかも揺さぶられ方もなんか落ち着く 感じだし。 「早くしないとたかあきくんが来ちゃうよ。今日は三人で出かける約束でしょ〜」 出かける…約束… ハッ、そういえば今日はどこかに行くんだっけ。そう思った私は、急いで布団を跳ね除ける。 しかしそれがいけなかった。 ゴツン! 「いたいよぉ〜郁乃。頭ぶつけちゃったじゃないの〜」 「はいはい、急に起き上がって悪かったわね」 「んもぅ、早く顔を洗って降りてきてね。もう朝食は作ってあるから。そんな格好で、たかあきくん に見られたら恥ずかしいでしょ〜」 そんなことを言って姉は下へ降りていった。 その時、私はなぜか顔が赤くなったような感じがした。…どうしてだろ? あ、そうそう申し遅れました、私小牧郁乃。今までずっと病院で生活してきたためか、このように いつも寝起きがとっても悪いです。 そして今来たのが私のお姉ちゃんの愛佳。年は一つ上。いつもあんな感じでぽやーっとしています。 …誰に向かって言っているんだろ。 とにかく朝はいつもこんな感じです。 今日はそのお姉ちゃんの彼氏、河野貴明と一緒に三人でどこかへ行こうということになってます。 でも行く先はまだ私は知りません。 一体どこに行くんだか。 まああの二人の事だから、おおよその想像はつくけど。 眠い中をこらえて顔洗いを済ませ、下へと降りた。お母さんとお姉ちゃんはもう朝ご飯を食べたみ たい。 「郁乃、おはよう」 「おはよぉ〜郁乃」 「おはよ」 テーブルを見ると今日はパンに目玉焼きとサラダと牛乳が出ていた。 「郁乃。他に何か食べたい?」 「いや、別に」 お母さんから聞かれるけど、今日はあまり食欲がないし、それに今は7時半。あまり時間がないか らそんなに食べられない。 「いくのぉ〜どうしたの。今日は食欲がないの? どこか体でも悪いの? それじゃあたかあきくん に電話してまた今度に…」 「あーっもう、ちょっと食欲がないだけで人を病人扱いしないでよね。朝の起きたばっかりは食欲だ ってないわよ」 はあ、お姉ちゃんったら心配性すぎるのよ。いくらついこの間病院から退院したって言ったって。 そこまで思い込むことはないでしょうに。それだったら今日の外出だって、いつもなら心配して何か 言うはずじゃないのよ。 ………まあ、お姉ちゃんが心配してくれることは嬉しいんだけど。 朝食もそこそこに食べ終え、歯を磨いて支度する。そんな時。 ピンポーン え、もう貴明がきた? まずい、どうしよう。まだ支度が終わっていない所を貴明なんかに見せら れないわよ。 「あ、たかあきくんおはよー。あがってあがって」 「おはよう愛佳。それじゃあ失礼して」 だからまだ終わってないんだってばー!お母さん、いつもみたいに何とか引き止めておいてー。 「郁乃ー、まだ支度終わってないの?。たかあきくんが来たよー」 「分かったから、もう行くから」 ってお母さんはどこに行ったの? いつもなら貴明に会うたびに「おふたりは進むところまで行っ たの?」とか「早く孫の顔が見たいわー」とか言って必ずカマをかけているのに… 「郁乃、もう貴明君が来たみたいよ。早く行きなさい」 あれ、お母さん。どこから出てきたの? 「どこからって、郁乃の部屋からシーツとかを洗おうかと思って取ってきたのよ。そんなことはどう でもいいから、早く行きなさい」 「はーい」 急いで支度をすませて、居間にいる貴明のところへ向う。 居間に顔を出すと、やはり貴明がそこにいた。 「郁乃ちゃん、おはよう」 手を挙げてあいさつしてきた。 「・・・お早いこと」 私はぶっきらぼうにあいさつを返した。 「郁乃、たかあきくんにちゃんとあいさつしなきゃだめでしょ? ごめんねぇたかあきくん」 「いやいいから。それよりも二人とも支度は済ませた? まあ、まだ時間まではだいぶあるからいい んだけど」 私は支度を済ませている。お姉ちゃんはというと・・・ 「た、たかあきくん、ちょっとまってぇ。すぐに支度するからぁ〜。」 …って、自分の支度はしないで、私の支度を優先させたの? まったくもう、お姉ちゃんったら… お姉ちゃんは支度をするために居間から出て行った。そして居間には私と貴明の二人だけとなる。 「郁乃ちゃんはもう支度はできたの?」 「姉と違ってね」 「今日はお出かけ日和だな」 「…そうね。」 「きょ、今日どこに行くか聞きたい?」 「いや別に。二人が行くようなところはなんとなく分かるから」 「…そ、そう」 どうして貴明と話すとき、特に二人っきりだと、こんな無機質な会話しかできないんだろ。お姉ち ゃんとかほかの誰かとだったらこんなことはないのに。 「二人ともお待たせ〜」 お姉ちゃんの支度が整ったみたい。 「それじゃあ行こうか。愛佳、券は持った?」 「うん、持ったよ。それじゃあお母さん、行ってきまーす」 「行ってきまーす」 私とお姉ちゃんは先に外へ出た。 「それじゃあお義母さん、行ってきます」 「二人のこと頼んだわよ。特に郁乃をよろしくね。あの子はまだ行ったことがないところだから、ち ゃんと楽しませてやってね」 「分かりました。」 貴明もお母さんと話した後、外に出ようとする。でもお母さんが、貴明の手を引っ張った。 何をコソコソとしゃべっているの? 「あとそれと」 「何でしょう?」 「今日はあまり愛佳とべったりくっついちゃっていると、郁乃のいるところがないからね。ほどほど にね」 「は、はい分かりました」 「それは帰ってきてからたっぷりと楽しんでね。あー、早く孫の顔が………」 「い、行ってきます」 お母さんったら朝からそれですか。というかコソコソとしゃべっているのが、丸聞こえなんですが。 やっぱり貴明は逃げるように外へ出てきた。なんか心なしか顔も赤い。そんなこと言われたら誰だ って赤くもなるわよ。 「ほ、ほら行くぞ。」 貴明はごまかすように強引に私とお姉ちゃんの手を引っ張った。 「うふふ、若いっていいわねえ。でも、私たちも若いころはあーんなことやこーんなこと………」 …なんか聞こえたような気もするけど、気にしない。というかしちゃいけない。 駅でバスに乗り、だんだんと山の中に入っていった。そして降りた場所は… 「郁乃、ここだよ」 「え、ここって………」 「郁乃ちゃん、まだ来たことないんだろ、だから愛佳と相談してここにしたんだよ」 「………そう」 今降りた私がまだ来た事がない場所、それは果物の農園だった。 看板を見ると、いろんな果物の木が植えてあるみたい。ってお姉ちゃん、何人差し指くわえてるの? 「えーっと、今日はぶどう狩りよねぇ。今そのほかって何かないかなあ」 …お姉ちゃん、三人で楽しもうというよりは、自分一人の楽しみを優先していませんか? 「愛佳、今日は郁乃ちゃんに楽しんでもらうために来たんだよ。いくら食べたいからって、自分を優 先しないの」 「うぅー、それはそうだけど…あたしだって、楽しみたいんだもん。せっかく来たんだし、色んなの 食べたいんだもん」 「だからそれはまたの機会、な?」 「………たかあきくんのイジワル」 「なぜに俺がイジワル? 別に俺はイジワルなことなんかしていないぞ」 「あーっ、もう!二人ともそんなところで痴話げんかしない。私の居場所がないでしょ」 このままだと、何も食べられずに帰ることになるかもしれないので、一応横やりを入れておく。 って二人とも、そこで仲良く赤くならない。 「ご、ごめんね郁乃。それじゃあ行こうか。うふふ…ぶどう…食べ放題………」 「い、郁乃ちゃん、行こう」 「はいはい、まったくもう…ハァ」 ホント、この二人は…開いた口が塞がらないわ… そんなこんなで農園に入り、係の人に園内での注意や、ぶどうの取り方などを説明してもらった後、 自由時間となった。なったのはいいんだけど……… 「はい、たかあきくん、あーん」 「あ、あの愛佳さん?それは、つまり…」 「うん、たかあきくん、た・べ・て」(はぁと) ハァーーーーーー。なによこれ、はずかしいったらありゃしない。周りの目というものを少しは気 にしなさいよ。ほら、あそこの集団だってこっち見てなんか言ってるし。 「ねえねえお兄ちゃん、なんかあそこだけ空気違うね」 「ああ、そう言われてみれば」 「朝倉君、ずいぶんと羨ましそうですね」 「何を妄想しているんですか兄さん。兄さんもあんなシチュエーション体験してみたいのでしょうか?」 「な、なに言っているんだよ音夢。それにことりも。と言うかそんなに怖い笑顔でこっちを凝視しな いでください!!」 言われちゃってるじゃないのよーーーー。早く二人ともやめなさいってばー!!! って私がいく ら心の中で叫んでも二人には聞こえないし……誰か、この二人の暴走を止めてーーー!! 「おうお二人さん、仲のいいこったな」 「あっ、農場の人………」 そう願っているとき、農場の人が貴明とお姉ちゃんに話し掛けた。 「お二人さん、仲のいいのはいいこったが、お連れさんが寂しがっているぞ」 「あっ……郁乃」 「そ、そういえば郁乃ちゃんをすっかり………」 ………今ごろ気づいたんですか。 「いくのぉ〜、こっちで一緒にぶどうがりしよぉ〜」 「郁乃ちゃん、こっちにおいで」 いや一緒にと言われても、今までの様子を見ていればあの二人の輪にすごく入りづらいのですが。 ………ハァ、しょうがないなあ。 「はいはい、そっちに行きますってば」 しぶしぶ私は二人の所へ行った。 それからは、バカップルっぷりをさらけ出すこともなく(私としてはつかぬ間のひととき)、三人 で仲良く……じゃない、私は貴明とはあまり話さず、予定していた時間になった。 ………どうして貴明が話し相手になると、うまく話せないんだろ。 「今日はいっぱい取れたね」 「うん」 「で、これは誰に渡すの?」 「え〜っとねえ、お父さんでしょ〜、それとお母さんでしょ〜。由真でしょ〜。他には………」 「他にどこに渡す相手がいるというの? いて、大阪のおじいちゃんおばあちゃんぐらいでしょ」 「そうだねぇ〜」 やれやれ。ってあれ、それにしては量がかなり……… 「あのー、愛佳」 「なに?」 「ちょっと疑問に思ったんだけど………それぐらいの人にしか渡さないのにどうしてそのぶどうの量 が半端じゃないわけ?」 「あ、何ならたかあきくんの妹さんとお姉さんにも」 「それにしてもありすぎでしょ?どうするのそんなに?」 「いえ、それは普通に………」 あっ、なんか私、今後の展開が予想できた。 「「一人で食べるの?」」 な、何で貴明のやつとハモっちゃうのよ!……不覚だわ。 「え、え、そ、そんなことはないですよぉ〜」 「………なんか、今までのことからするとそうとしか思えないんだけど」 「や、や、そんなことはない」 「……そうだな、郁乃ちゃんが言うように、今までの経験からして、一人でみんな食べる気なんだな」 「不本意だけど、貴明と同意見のようね」 「不本意って何だよ、不本意って」 「……二人のイジワル」 「「イジワルって………」」 このあと、お姉ちゃんをなだめて、何とか家路についた。と、言うよりいつの間にこんな籠にたく さん……これってやっぱり委員ちょマジック? 「まあたくさん採ってきたわねえ。郁乃、今日は楽しかった?」 「まあそこそこ楽しませてもらったわよ。途中でバカップルぶりをやられて、砂吐きたくなりそうだ ったけど」 「貴明君、ダメでしょ。そんなことしちゃ」 「すいません」 お母さん………ありがとう私の言いたいこと言ってくれて。 「それは帰ってきてからのお楽しみだって朝言ったでしょ。男は我慢しなきゃ」 ………そっちのほうですか。ちょっとでも感動した私が馬鹿だった。貴明のやつ、お母さんの手の ひらで弄ばれているようね。 「それはそうと郁乃。ちゃんと愛佳と貴明君に感謝しなきゃよ。私たちじゃあこんなことしてあげら れないもの」 「………ありがとう」 何で私、こんなにそっけない言い方なんだろ。お姉ちゃん一人にだったらまだ素直に言えるのに… 「いえいえ。郁乃が行きたいところがあったら遠慮なく言ってね」 「どういたしまして、郁乃ちゃん」 「これからもこういうことがあると思うけど、そのときは愛佳、貴明君、よろしくね」 「はーい」 「喜んで行かせていただきます。っとそれはそうと今日お義父さんは?お義父さんにもぜひ食べても らいたいのですが………」 「今日はなんか遅れるらしいのよ。困ったわねえ、私もこれから出かけてこなくちゃならないんだけ ど」 「そうなんですか」 「あっ、ご飯はもう作ってあるから心配しないで。終わったら食器は水につけておけばいいから」 「はーい」 「ごめんねえ。それじゃ後頼んだわよー」 お母さんはどたばたしながら、出かけていった。さて、今日の夕飯はなにかな? 「たかあきくん〜、いくの〜、ご飯食べよ〜」 な、なに、あいつの分まであるの!? 「え、俺の分もあるの?」 「そうみたい。だから三人で食べましょ〜」 な、なんか今後の展開が予想できたような……… 「はい、たかあきくん、あーん」 ……やっぱり。家に帰ってきてまで、バカップルを演じないでよね。私の居場所がなくなっちゃう でしょ。 「あ、ねえねえたかあきくん。今晩泊まってく?」 「い、いやそれは……世間体もあるし、それに郁乃ちゃんもいるし………」 「なによ、私がいるのが邪魔のようね」 「い、いやそうではなくて。だから今日は姉妹でゆっくり休んで。俺はこの後帰るから」 「そう?できれば私としては………」 「今日はダメ」 「………わかったよぉ」 ………とりあえず今日は平凡のようね。というか今日はゆっくりさせてもらわないと。大分はしゃ いじゃったもんなぁ。やっぱり外っていいなあ。病院での生活じゃあこんなこと体験できなかったも の。 それに、私が取れなかったぶどうを貴明が取ってくれたり、行き帰りの時荷物が重そうだからって、 貴明が持ってくれたり…って何で私、貴明の事しか思い出せないのよ。別に貴明のことなんかどうで もいいのに…… 「じゃあねたかあきくん」 「それじゃあまた明日」 あ、帰ったみたい。それじゃあ私もおふ…ろ……… 「いくのぉ〜、もうお風呂入っていい……うふふ、今日一日はしゃいだもんねぇ。お疲れ様。」 愛佳はソファーでうたた寝している郁乃に部屋から持ってきた毛布をかけた後、風呂に入った。 「貴明…今日はありがとう…ムニャ」 終わり
あとがき 皆さんお久しぶりです。仲龍です。 さて以前BBSのほうで予告したとおり、SSを投稿させていただきました。 内容としてはいかがでしょうか。 今回のSSの題としては郁乃の初体験という感じのものを構想しました。あまり素直には なれない郁乃の感じを出すのは骨が折れました。 又、前作との前後関係については、今回のほうが前で、前作の方が後になるようにはしています。 一応以前の教訓どおり(詳しくはBBS参照)に従って書いたつもりではあるのですが、 愛佳のお母さんが激しく壊れちゃっていますことを先にお詫びいたします。 (自分でももう手の施し様がありません。) 最後までお読み下さいまして、ありがとうございました。 〜追記〜 前も今回のSSも一応伏線というような感じで隠し要素(と言えるものでもない)を 入れてみました。何のものかは大体の人は分かるかと思いますが。(どちらも同じものです) そしてもう一つ、朝ごはんのメニューの定番といえばあのような感じで合ってますでしょうか。 自分の家は田舎で、あんな料理は出たことがないので。
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